透明な色
夏の留伊


纏わりつくような湿気と息苦しくなる熱気に不快感を我慢出来ず、伊作が目覚めたのは夜がかなり更けた頃であった。
額に流れる汗を拭い上体を起こす。宵の静けさの中に雨の降る音だけが響いて、不意に世界に自分だけ取り残されてしまったかのような孤独感に襲われた。もう子供ではないのに、たまにこの様な孤独感に悩まされている。伊作は背筋を伸ばしそっと衝立の向こうを覗き込んだ。

寝苦しそうに軽く眉間に皺を寄せているが、ぐっすりと寝ている留三郎がいつものように其処にいて、伊作は深く息をついた。大きくはだけた胸元は、規則正しく上下している。

「…留三郎、」

小さな声で名前を呼ぶ。起こしてしまうことを躊躇い、本当に雨の音に消されてしまう程の小さな声であった。
しかし伊作の声に反応し、留三郎の眉が僅かに動く。薄く開かれていた唇から掠れた声が洩れた。

「…どうした、伊作…眠れねぇの?」

まさか起きるとは思っていなかった為に伊作は慌てて四つん這いになったまま衝立の向こうに移動する。枕元に座り込み、スルリと留三郎の頬を撫でた。

「ごめんね、起こして。」

留三郎はまだ眠りの浅瀬にいるのか、片目だけ薄く開けながら伊作を見上げる。しかしすぐに表情は柔らかくなり、口元に緩く弧を描いた。

「来いよ、一緒に寝るぞ。明日も朝早いし、寝坊できねぇからな。」

留三郎が伊作の手を緩く掴み、優しく自分の元へ引く。伊作は誘導されるがままに留三郎の横に寝転がり、胸元に顔を寄せた。少しの汗の匂いと、いつもの留三郎の匂いがした。
留三郎は余程眠かったのか、伊作の髪を一撫でするとまた静かに眠りに落ちていった。伊作は胸元に顔を埋め鼓動を感じながら、安心感に包まれて目蓋を閉じた。

「…大好きだよ、留三郎。君は少し優しすぎるんじゃないかな」


夏と雨に包まれた透明な世界を美しいと思った。


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最近暑くて眠れません!
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